
コラムニスト
海外渡航取材回数200回超。
コラムニスト。ファッションやグルメ、旅や酒などラグジュアリー・ライフをテーマに新聞や雑誌で活躍中。
『料理通信』『GOETHE』『UFJ CARD MAGAZINE』『LEON』などに人気連載を執筆するかたわら、月に二回のペースで海外取材をこなし、数多くの特集記事も寄稿している。2007年にフランスで最も由緒ある、シャンパーニュ騎士団のシュバリエ(騎士爵位)の称号を、数少ないジャーナリストの一人として叙勲。
渋谷金王道場指導剣士で剣道練士六段。大日本茶道学会茶道教授。

街には香りがついている。そして僕にとって香港という街は、シャンパンの蠱惑的な匂いのイメージである。
つい先日、マンダリン オリエンタル香港にステイしたときのこと。出国前に、客室を僕の好きな白い花で飾ってほしいことと、シャンパンを冷やしておくことだけを伝えておいた。チェックインして、とりあえずシャンパンを空けるのが、僕の何よりの旅の愉しみなのだ。通された2222号室は、白いアマリリスと白い薔薇で、すっきり統一してあるのには、さすがだなと思った。もちろんテーブルの上のシャンパンも、キンキンに冷えていた。僕は、なにげなくその銘柄をみてさらに驚いた。フィリポナ社の「グラン・ブラン 1999ヴィンテージ」であったからだ。これは、シャルドネだけでつくるシャンパン、いわゆる「ブラン・ド・ブラン」(白のなかの白)の隠れた銘品だ。白い花に、ブラン(白)のシャンパン。僕は銘柄の指名などしていないから、あきらかにホテルの仕掛けである。さすが老舗は違うといえばそれまでだが、同じサービスでもそのなかに“色気”や“ウイット”を漂わせることは容易ではないと思う。
こうした粋で洗練されたサービスは、このホテルに限った偶然ではない。香港に滞在している間中、少なからず出逢うことである。サービスの質の高さで張り合える街は世界中にあるだろうが、色気の域まで昇華させるポテンシャルをもったところはどれほどあろうか。その点でいえば、いまの東京は香港の足元にも及ばないだろう。それはシャンパンの香気とおなじで、香港という街が長い月日をかけて熟成させた独特の香りだからである。そして、僕が香港にたびたび出かけるのは、その心地いい匂いに誘われるからなのである。